ヒメギフチョウの特徴と生態

昆虫

ヒメギフチョウ Luehdorfia puziloi

基本データ

分類チョウ目 アゲハチョウ科
学名Luehdorfia puziloi
分布北海道、東北地方、群馬県・長野県・山梨県の一部
国外:シベリア東部、中国東北部、朝鮮半島
生息環境北海道:平地~山地の森林
本州:低山地~山地の森林
大きさ48~52mm
成虫の出現時期北海道:4月中旬~5月中旬
本州:4月上旬~下旬
食草オクエゾサイシン、トウゴクサイシン、ウスバサイシン(ウマノスズクサ科)

日本の2つの亜種

日本のヒメギフチョウには2つの亜種があります。
エゾヒメギフチョウ(北海道亜種)ヒメギフチョウ(本州亜種)の違いを紹介します。

エゾヒメギフチョウ

北海道に生息しますが、分布は局地的で南西部には生息していません。

食草はオクエゾサイシン

本州亜種との外見的な違いは、前翅の付け根に近い部分の黒帯が太いほか、尾状突起が短いという部分です。

エゾヒメギフチョウ

個体差により後翅の赤い斑紋が黄色になるタイプもあり、「イエローテール型」と呼ばれているそうです。上の写真は赤いので普通型ですね。

ヒメギフチョウ

北海道亜種のエゾヒメギフチョウと比べて尾状突起が長く、上の写真で示した前翅の黒帯が細いのが識別ポイントです。

幼虫の食草はウスバサイシンやトウゴクサイシン。

雄と雌の見分け方

交尾中

あまりよく見える写真がなくて申し訳ないですが、オスとメスを見分ける時は前翅の形とお腹の毛の生え方を見ます。

前翅の形で見分ける

オスは前翅の幅がメスよりも狭く、シュッと鋭い三角形をしている印象です。

メスは反対に前翅に丸みがあり、おむすびのような緩やかな三角形です。

お腹の毛で見分ける

オスは腹部背面に毛がモフモフ生えています。後翅に隠れがちですが、黄色い毛がよく目立つので翅で見分けるよりわかりやすいかもしれません。

メスは腹部背面に毛があまり生えていません。

上の写真は雌。翅はボロボロですがお腹に卵が入っているのか、腹部が少し膨らんでいますね。

ヒメギフチョウの一生と幼虫の食草

ヒメギフチョウは「スプリング・エフェメラル(春の儚いもの)」とも呼ばれる通り、1年のうち春にしか姿を見せません。
桜が咲く頃に成虫が現れ、桜が散る頃には同時に姿を消してしまうのです。

もちろん、成虫が見られなくなるだけで卵、幼虫、蛹として存在しています。
春の短い期間で交尾をした雌は、食草のオクエゾサイシンやウスバサイシンに産卵します。

オクエゾサイシン

卵から孵った幼虫はこの食草を食べて育ち、成長した終齢幼虫は6月下旬から7月頃になると落ち葉の陰や枝などで蛹化します。
ここでそのまま夏を越し、秋を越し、冬を越して…翌年の4月から5月頃に羽化するのです。
一生のほどんどの期間を蛹で過ごしているのですね。

ギフチョウとの違い・見分け方

ヒメギフチョウと同じく、『春の女神』と呼ばれるチョウにギフチョウ Luehdorfia japonicaがいます。

ギフチョウ

似ている2種ですが、以下のポイントで見分けられます。

ギフチョウは前翅先端の黄色の紋が少し内側にずれてジグザグしますが、ヒメギフチョウはずれずに黄色のラインが一直線になります。

また、ギフチョウの後翅の斑紋はオレンジ色ですがヒメギフチョウは黄色なことで区別できます。
後翅の斑紋を見るのが一番わかりやすいかと思います。

ギフチョウとヒメギフチョウは長野県や山梨県、秋田県の一部などで分布が被っている地域もありますが、基本的には分布が分かれているので、それぞれの生息域を知っていれば野外で迷うことはほとんどないと思います。

『ルードルフィアライン』とは?

ヒメギフチョウとギフチョウの分布の境目は、属名(学名の上の部分)の「Luehdorfia」からとって『ルードルフィアライン』または『リュードルフィアライン』と呼ばれています。

基本的に、ヒメギフチョウが生息するのは東日本、ギフチョウが生息するのは西日本です。

これを分けているのがルードルフィアライン。

ルードルフィアライン

わずかながら、境界線上に両種が混生している地域もあります。
これらの地域は希少であることから、国や市町村の天然記念物に指定されている場所も。
指定の地域では条例や法律で採集が禁止されていますので、探しに行く場合は撮影のみにしましょう。

また混生地以外でもこの2種は希少であることから、天然記念物に指定されている地域もあり採集禁止の場所が多いので注意が必要です。

参考&おすすめ図書

日本全国のチョウのことや、北海道のチョウについて調べたいときにオススメの図鑑です。

  • 『北海道の蝶』(北海道大学出版会)
  • 『フィールドガイド日本のチョウ』(誠文堂新光社)
  • 『北海道の蝶と蛾』(北海道新聞社)

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