エゾサンショウウオの特徴と生態

両生類

この記事では、北海道固有種のサンショウウオ『エゾサンショウウオ』の特徴と生態について紹介します。

エゾサンショウウオ Hynobius retardatus

基本データ

分類有尾目 サンショウウオ科
学名Hynobius retardatus
分布北海道
生息環境繁殖期の成体、卵、幼生:池、沼、湿地、側溝など(止水性)
成体:草地、森林
大きさ120~200mm
出現時期3月下旬~11月上旬
寿命10~30年ほど
産卵するエゾサンショウウオ

生息地域と生息環境

北海道にはサンショウウオの仲間が2種生息しています。
今回ご紹介するエゾサンショウウオと、釧路湿原などに生息するキタサンショウウオです。

キタサンショウウオは、北海道では釧路湿原などに分布が限られていますが、国外ではシベリアにも生息しています。
エゾサンショウウオは、世界で北海道のみに生息する固有種。
周辺の島を除く北海道全域に分布しています。

生息環境は主に森林や森の中の湿地です。

エゾサンショウウオが棲む森の中

繁殖の様子

エゾサンショウウオの繁殖が始まるのは、雪どけの頃。
平地では4月下旬から6月頃高山では7月頃になるところもあります。
今年は3月下旬に繁殖が始まっているのを確認しました!

繁殖期になると、オスは脇腹の皮膚の溝(肋条)がはっきりと目立つようになり、雌は卵でお腹がふくらみます。

エゾサンショウウオ雄の肋条

普段は陸地にいることが多いエゾサンショウウオですが、繁殖期には水辺に集まり集団でかたまります。
産卵は夜間に行われていることが多いですが、ピーク時の数日間はこのように昼間見られることもあるようです。

卵は『卵のう』に入った状態で木や草などに産みつけられます。上の写真に写っている白いもやもやしたものです。3つあるので、この集団には雌が3匹いることになります。

サンショウウオの仲間はさまざまな形の卵のうを作りますが、エゾサンショウウオの卵のうはコイル状(螺旋状)の形。よく見るとグルグルと螺旋を描いていますね。
この卵のうの中には約20~120個の卵が入っており、成体が去った後30~40日ほどで孵化します。

幼生の成長と生存戦略

孵化した幼生は、細長いオタマジャクシにひらひらのエラがついたような形をしています。
プランクトンやエゾアカガエルのオタマジャクシなどを食べて成長し、多くは年内に上陸しますが、高山など寒冷な場所では成体になるまでに2年ほどかかることもあります。

エゾサンショウウオの幼生について、興味深い研究があるのでご紹介。
幼生は共食いをすることも多いのですが、中には頭部が通常より大きくなる個体が出てきます。
頭が大きいと、共食いをするのにも有利になりますよね。
この個体差は共食いをしなかった場合にも出てくるようですが、ある程度の条件があるようです。

それは、その集団の密度が高いほど、そして集団の血縁度が低いほど、頭の大きな幼生が多くなる傾向があるということ。

密度が高ければ生き残りのために共食いもするけれど、頭を大きくするにはそれなりのコストが必要ですから、密度が低い場合ならわざわざ大きくしなくても良いということでしょう。


また『血縁度が低い』というのは、同じ卵から孵ったきょうだいではない個体(他人)が多いということです。

この研究から、『密度が高い場所では共食いに有利な頭の大きな個体が増えるが、同じ遺伝子を持つきょうだいが多い場合は頭の大きな個体が少なくなる。これは同じ血縁を攻撃するのを避けるように進化してきたからではないか』ということが考えられています。
面白い研究ですね。

エゾサンショウウオの天敵

エゾサンショウウオは小さな昆虫などを食べる捕食者でもありながら、自身もさまざまな動物や鳥に狙われる被食者でもあります。

  • 成体の天敵…哺乳類、鳥、ヘビなど
  • 卵の天敵…トビケラなどの水生昆虫
  • 幼生の天敵…ザリガニなど

このように、それぞれのステージで異なる天敵が存在します。成長過程で水と陸の両方に生息する両生類は、それぞれの環境の生態系も支えている貴重な存在なのですね。

ただ、困ったことに北海道にも特定外来生物のアライグマが生息しています。
このアライグマが、水辺に集まった繁殖期のエゾサンショウウオを捕食してしまうこともあるようです。
人間が持ち込んだ生物による自然への影響を真剣に考えていきたいところですね。

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